さてさて、昼下がりの猫鳴町にございます。
ここは質屋「雪乃屋」
その奥で昼寝をむさぼるは
この町きっての怪盗
鷹丸どのにござりまする。
夜は闇を裂き、昼は高いびきを響かせるという、
何とも呑気な御仁にございまして――。
さてさて、昼下がりの猫鳴町にございます。
ここは質屋「雪乃屋」
その奥で昼寝をむさぼるは
この町きっての怪盗
鷹丸どのにござりまする。
夜は闇を裂き、昼は高いびきを響かせるという、
何とも呑気な御仁にございまして――。
ちょいと鷹丸!
いつまで寝てるんだい!
ドカ!!
どこからともなく聞こえしは、女の声。
質屋の主、お雪どのが寝床に近づき
容赦なく一発蹴りを入れたのでござる。
いてぇな!なんだよ、寝かせとけよ!
昼間っから男が寝てるなんざ
世間様に申し訳が立たないってもんさ!
へっ、こっちは夜通し働いてんだ。昼ぐらい寝かせろってんだよ
鷹丸がふてぶてしくあくびをひとついたすと、
その目の前にお雪どのがどんと
一升瓶を置き申した。
お?酒か。お前も気が利くようになったじゃねえか
手を伸ばす鷹丸、されど、
その手をお雪どのは
ぴしゃりと払いのけたのでござる。
バカ言ってんじゃないよ。
あんたに仕事が入ったんだよ!
仕事?
教会にある絵画を取り戻してほしいって話さ。昔、酒問屋の旦那が持ってたもんで、
その旦那が火事で亡くなって、絵も消えたと思いきや、教会に隠されてたんだと
へぇ、それを盗み出せってわけか。ま、俺にゃ朝飯前だな
でもさ、なんだかこの話、きな臭いんだよねぇ
ただの形見ならいいけど、教会が隠してるってのがどうにも怪しいのさ
されど、鷹丸は話半分に聞き流し
一升瓶を手に取り申した。
おい、何やってんのさ!
大丈夫だって。その絵を取ってくりゃいいんだろ?
そうだけどさ、気をつけなよ。裏があるかもしれないんだから
鷹丸はぐいっと酒を飲み干し
くいっと身を起こす。
心配するな、俺を誰だと思ってんだ?天井から忍び込むも、
影に潜むも、猫鳴町随一の俺様の得意技よ。じゃ、ちょっと下見に行ってくるぜ
そう言うが早いか、鷹丸は軽やかな足取りで
質屋を飛び出したのでござる。
その後ろ姿を見送るお雪どのは
呆れたようにぽつりとつぶやく。
まったく、呑気な奴だよ……
かくして、鷹丸は教会へと向かい申した。
この話が後にどれほどの波乱を
巻き起こすやら
――その時、まだ誰も知る由はござりませぬ。
――さてさて、皆々様、お聞きくだされ。この世には、猫の世に馴染めぬ者が数多おる。
されど、その中にて、ひときわ異なる男がひとり――その名を鷹丸と申す。
銀の髪を風になびかせ、
紅き瞳をぎらりと光らせる長身の男。
さればこそ、尋常の猫とは一味も二味も違う。
その血の内には、三百年を生きたという
大化け猫の因果が滾(たぎ)っておる。
猫たちは皆こう呼ぶ「妖混(あやかしま)じり」
――この世の理にそぐわぬ存在として、
世間の者どもは彼を厄介者と忌み嫌った。
「妖混じりは、体に異形を宿し、心もまた欠けておる」
と囁かれ、仕事も得られず
村々を追われる者も少なくない。世間の風は冷たく、
共に生きることなど夢のまた夢。
しかし、鷹丸は違った。
厄介者から一歩、世に受け入れられる
存在へとなりつつあった。
されど、妖の血は決して消えぬ。果たして彼は、
この世に己が居場所を見つけることができるのか――
さぁて、これより語るは、妖の血を継ぐ者の物語。
皆々様、耳を澄ませてくだされよ――。
(300年生きた大化け猫
シャー!)
つづく